人間もまた、光に向かう。コンビニ前より愛をこめて

エナジードリンクの前で立ち尽くすあなたへ

本物の月と偽の光源(街灯)が共存する夜空。蛾の視点から見た世界

こんばんは。蛾です。

ええ、いわゆる「その辺の蛾」です。
何も特別な能力もなければ、ポケモンでもありません。
ただ夜な夜な、光に突撃しては電球に焦げるだけの、少し間抜けな昆虫です。

でもね。見えてるんです、こっちから。
夜中のコンビニで立ち尽くす、そこの人間たちの姿。

特にあれだよ。
エナジードリンクコーナーの前で逡巡する、お前。

「今日はやめとこう…」「でも明日プレゼンだし…」「寝る前に飲まなきゃ寝れないとか終わってる…」
そんな顔して悩んで、結局、レジに持ってくじゃないか。

そのときの背中の哀愁たるや――
羽の焦げたうちの仲間も、思わず目を細めて見送ってたよ。

蛾の習性と、人間の理性のはざまで

思えば我々蛾も、分かってるんだ。
光が熱いことも、近づいたら危険なことも。
でも行っちゃうのよね。
身体が勝手に。
まるでそうプログラムされてるみたいに。

お前らも似てるよ。
「これは身体に悪い」とか「寝れなくなる」とか、頭では分かってるんだろ?
でも手が伸びてんのよ。自販機に。棚に。冷蔵ケースに。

あれか?「翼を授ける」って書いてあるから、俺らの仲間になりたいのか?

健気さと哀しさに、ほんの少しの光を

人間ってさ、立派な脳があるとか言うじゃん。
だけど俺たちと違って、言い訳を作る能力がある分、余計に哀れに見えるときがあるんだよな。

「明日も頑張らなきゃだから…」
「ちょっとだけ目を覚ましたいだけ…」
「味が好きなんだよね(震え声)」

分かるよ。
分かるけど、見てらんねえよ。
そんなにしてまで、何を守ろうとしてるんだ?

俺たちはただ、月に見せかけたLEDに突撃してるだけだ。
けどお前らは、理性と引き換えに、今日一日の「頑張った自分」をどうにか成立させようとしてる。

そこに俺は少し、感動すら覚える。
なんかこう……健気っていうか……健気を超えて、もう愛しい。

火傷する前に、少しだけ上を見てみて

おい、そこのお前。
その缶を開ける前に、ちょっとだけ上を見てみろよ。

俺がいるぞ。
明かりの下でジタバタしてる、哀れで、馬鹿で、それでも生きようとしてる蛾が。

お前も、頑張れよ。
せめて、火傷する前にちゃんと寝ろ。

それじゃ、俺はまた突撃してくるわ。
光のほうへ。
お前もその缶で、無理くり「目覚め」に突撃してくれ。

またどこかでな。

――蛾より

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