銃弾の占領。ポケットの覇者
サバイバルホラーゲームの世界において、銃弾の存在感は異常である。
どれほど恐ろしい怪物が徘徊していようと、どれほど暗く不気味な廃墟を探索しようと、プレイヤーがまず気にするのは「弾が足りるか?」である。
「この先にボスがいるかもしれない…弾、大丈夫か?」
「ショットガンの弾を拾った!でもインベントリがいっぱいだ…どれを捨てる?」
そんな不安と選択を繰り返すのが、この世界の掟だ。
しかし、ここでひとつの疑問が生じる。
なぜ、銃の弾がとんでもないスペースを占めるのか?
現実の9mm弾なんて、ポケットに何十発も余裕で入る。
ショットガンの弾だって、ベルトにずらりと並べられるはず。
だが、サバイバルホラーゲームの弾薬は違う。
「ハンドガンの弾(15発)」→ インベントリ1枠占拠
「ショットガンの弾(5発)」→ インベントリ1枠占拠
「鍵」「薬」「回復スプレー」→ それぞれ1枠占拠
この法則でいくと、ハンドガンの弾15発と、救急スプレー1本が同じサイズということになる。
どういうことなのか。
たとえば、こういう状況を想像してほしい。
暗い廊下を進み、棚の上に「ショットガンの弾」を見つけた。
やった!と喜ぶも、すぐに気づく。
インベントリがいっぱいだ。
「うーん…」
そこで、わたしは所持品を確認する。
そこには、以下のものが入っていた。
ハンドガンの弾(15発)
ショットガンの弾(4発)
グリーンハーブ
オオカミの鍵
シバイヌの鍵
体力回復スプレー
体力回復スプレー(2本目)
ストーリー進行に絶対必要な謎の石板
「ショットガンの弾、拾えない…!」
15発の弾丸が、スプレー1本と同じスペースを占めているこの状況が、どう考えてもおかしい。
だが、この世界の住人は、その理不尽を受け入れるしかない。
この結果、何が起こるかというと…
① 銃弾を拾うために、謎の整理術が発動する
「よし、ショットガンの弾を拾うために…回復スプレーを捨てよう!」
本来なら「弾を拾うためにスプレーを捨てる」という選択肢は意味不明だが、この世界ではごく当たり前の判断となる。
むしろ、わたしたちはこの状況に慣れすぎているせいで、何の疑問も持たずにスプレーを地面に捨てる。
まるで、「明日には回収できるし大丈夫」とでもいうように。
…が、だいたいの場合、翌日には「戻ったら弾が消えてた!」となる。
② 銃弾を捨てるという禁断の選択肢
「いや、弾を捨てるのはもったいない…」
そう思いながらも、ポケットの容量は有限。
やむなく、ショットガンの弾をその場に置く。
…ということは、この館のどこかに、
「なぜかショットガンの弾が散乱しているゾーン」が生まれるのではないか。
後々、警察が調査に来たらこう思うだろう。
「なぜ、この屋敷には特定の地点にだけ大量の弾薬が落ちているのか…?」
③ バックパックが存在しないという謎
現実なら、「そんなに荷物持てないなら、バックパックを持てばいいじゃない!」となる。
しかし、サバイバルホラーの主人公たちは、決してバックパックを使わない。
どれほど弾がかさばろうと、ポケットと上着の内側だけでどうにかしようとする。
「いや、せめてベルトに弾くらい挿せるだろ?」と思うのだが、
なぜかすべての主人公は、そういう知識を持ち合わせていない。
この世界のルールは、理不尽である。
しかし、考えてみると、もし銃弾が普通のサイズだったら、ゲームバランスは崩壊するだろう。
プレイヤーはポケットに何百発もの弾丸を詰め込み、ゾンビが出るたびに無双できる。
そう、これはゲームデザインの都合なのだ。
つまり、こういうことではないか。
「この世界では、銃弾とは単なる弾丸ではなく、『物理的に圧縮できない概念的な存在』なのだ」
…なるほど。
つまり、わたしが持ち歩いているのは、単なる鉛の塊ではなく、「ストーリー進行を制御する概念の塊」だったのだ。
それなら仕方がない。
そう自分に言い聞かせながら、わたしは今日も銃弾を抱え、
「弾を拾うために、ハーブを捨てるか…」と悩むのだった。
弾丸か、それとも命か。
一見すると単なる選択肢に思えるが、これは哲学だ。
未来を切り拓く力か、いまを癒す力か――その二択。
だが、わたしは知っている。どうせハーブを拾ったところで、
結局、使う前にやられるのだ。
戦闘中にいざ使おうとしたら、
「ああっ、そんな余裕なかった!」とやられてしまう。
だったら、せめて弾で未来を切り拓くべきではないか?
そう、これは命を賭けた選択なのだ。
…そう自分に言い聞かせながら、わたしは今日もハーブを床に捨てる。
「また、やっちまったな…」
そう呟くわたしの背後で、捨てたハーブが青白く輝く気がする。
まるで、「本当にそれでいいの?」と語りかけてくるかのように。
――だけど、弾は裏切らない。
ハーブは裏切る。だって使う余裕なんてないんだから。
そしてわたしは、今日も弾を抱えて進む。
床に置かれたハーブのことなど、明日にはきっと忘れている。
