ライブ後の祝福とカホン忘れ。夜風はすべてを知っている
ライブを終え、心地よい充実感の中、駅への帰路を歩いていた。
むき出しの太ももを撫でる秋の夜風が、まるで「よくやった」とわたしを祝福してくれているかのようだ。演奏も盛り上がり、観客の拍手も心地よい余韻として残る。「今日はいい日だったなー」と、浮かれた足取りで夜道を歩くわたし。
その瞬間、スマホが震えた。画面にはお店からの連絡。「カホン忘れてます」。
カホン。そう、わたしがライブで叩いていた、あのカホンだ。
浮かれた気分は一気に冷え込み、脳内に「アホ」の文字が点滅する。カホンを置きっぱなしで店を出た自分を思い返すと、充実感がどんどん萎んでいく。「カホンって今日の手荷物のメインだろ!」と自分にツッコミを入れつつ店に戻る。
道すがら、さっきまで心地よく感じていた秋の夜風が妙に冷たく思えてきた。「さっきの祝福はなんだったのか」と問いかけたくなるほどに、わたしの気分はみるみる下がっていく。夜風よ、あなたは本当に味方だったのか?
カホンを回収し、再び駅への帰路を歩く。だが今度は足取りが重い。先ほどの「よくやった」という気分はどこへ消えたのか。カホンを抱えたわたしは、まるで「こんな大事なものを忘れていたアホです」と背中に貼り紙をされた歩く反省文だった。
今度からはカホンの存在を忘れないよう、何かしら工夫が必要だろう。例えば、カホンにGPSトラッカーを内蔵させるとか、カホンにしゃべる機能をつけて「置いていかないで」と訴えさせるとか。
いや、普通に持って帰ればいいだけの話なのだけれど。