新宿、トゲ、そして感情迷子。何もかもが錯綜する街

新宿。
久しぶりにタップのレッスンに復帰したキッズ。その姿に心が温まる。そうだよ、いいじゃないか、一度挫折しても戻ってくればいいんだ。まるで人生の縮図を見ているようで、心に甘美な刺激が突き刺さった。わたしは静かに拍手を送った。いや、盛大に拍手を送った。だがその直後、自分の指に運命のトゲが刺さることになるとは夢にも思わなかった。

スタジオの床板にふと手をついた瞬間、チクリと走る痛み。見ると、人差し指にトゲが刺さっている。「いや、これは簡単に抜けるだろう」と放置してレッスン継続。
レッスン後、爪切りを持ち出し、トゲの刺さったところをグイッと抉った。指の肉ごとトゲを摘出しようという試みだ。考えるまでもなく頭の悪い選択である。その結果、見事に指が裂けダラダラと血が流れ始めた。「ああ、これもう無理…!」と思いながらも、とりあえず新宿の街を歩き出した。

歌舞伎町。
指先から血を流しながら歩くわたしの姿は、ちょっと異様だったかもしれない。それでも街はいつも通りの喧騒で誰も気になどしていない…と思っていたら、ホストのキャッチに声をかけられた。「おねえさん、どうっすか、ちょっと一杯!」と、爽やかな笑顔。いやいや、指から血が流れてる人間を誘うか? あと、おねえさんって、君の目は大丈夫か? とも思ったが、可能な限りの笑顔で「結構です」と断った。するとそのキャッチ、明らかな舌打ち。

その音がわたしの中で不思議に響いた。痛みと恥ずかしさ、そして「なんで舌打ちされなきゃいけないんだ」という憤りが混ざり合い、感情がぐちゃぐちゃになった。「もう何が正しいのかわからない。キャッチの反応が正しいことだけは分かるけど!」などとつぶやきながら、新宿のネオンをぼんやり眺めることしかできなかった。

新宿という街は感情のミキサーだ。喜び、痛み、怒り、全てを一瞬でかき混ぜて、得体の知れない感情のスムージーを作り出す。そしてそのスムージーは二度と同じ味にはならない。あと、たぶん美味しくはない。

我に返る。
まずは傷口の手当てをすること。それが全ての感情のスタート地点だ。消毒をし、絆創膏を貼り、傷が治るまで歌舞伎町のカオスを楽しむべきだろう。ホストの舌打ちは…まあ、風物詩だと思って受け流そう。

タップスタジオで床に手をつく際、作業用のパワーグローブを装着することを忘れてはならない。それが新宿という魔窟におけるわたしの生存戦略だ。そして何より「感情の置き場所がわからない」というこの混沌こそ、新宿という街が持つ不思議な魅力なのだと思うことにした。わたしだってこの不気味なスムージーの材料なのだから。

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