ホラーゲームのメモ。そこにあるべきでない何か

暗い廊下を進む。
壁のひび割れから吹き込む風が、嫌な予感を運んでくる…。

わたしは震える手でドアノブに触れ、ゆっくりと扉を開けた。
そして、そこで見つける。

「都合よく落ちているメモ」

ホラーゲームにおいて、メモはいつでも、どこにでもある。

それは病院の受付にあったり、血まみれの床に落ちていたり、果ては怪物の棲む地下室の片隅にあったりする。

…いや、そんなところに紙を落とすなよ。

わたしが思うに、普通の人間は命の危険が迫る中、わざわざ筆記する余裕はないはずである。

たとえば、こういうメモがある。

「この館には、何かがおかしい…! 私たちは皆、次々と姿を消していく…!」

いや、そんな状況で筆を執るか?

もしわたしがその場にいたら、まず逃げる。
それが無理なら、叫ぶ。
それも無理なら、目を閉じて現実逃避する。

でも「とりあえず紙とペンを出そう」とはならない。

しかもメモの内容が妙に整理されている。
血文字で「たすけて」だけが書かれた紙ならまだしも、

「5日前、ジョンが行方不明になった。
4日前、マリーが発狂してしまった。
3日前、地下室から奇妙な呻き声が聞こえた。
2日前、トムがこの館を去ると言って出ていったが、戻ってこない。
1日前、私はここでこのメモを書いている。もうすぐ何かが来る…」

いや、これはもう日記じゃないか。

こんなに冷静に状況を整理できるのなら、たぶん生存率も高かったのでは?

さらに疑問なのが、メモの保存場所である。

たとえば、なぜか鍵のかかったロッカーの中にメモが入っていたりする。
どうやって入れた?

あるいは、異形のクリーチャーが徘徊する病院のど真ん中に、まるで「ここ読んでね!」と言わんばかりに落ちている。

「わたしは怪物に追われている!もうダメかもしれない!」
と書かれたメモが、普通に床に置かれていたりする。

わたしなら書いてる途中でペンを落として逃げる。
こんなにキッチリ文章を完成させられる自信はない。

そして極めつけは、
この館の秘密についての詳細なメモが、館の至るところに分割して落ちている、という事実。

なぜ館の中にはバラバラのメモが点在しているのか。

考えられる可能性は2つだ。

① 誰かが意図的に配置した
「館の真実を知りたければ、館内を隅々まで探索するのだ…フフフ…」という、
意地の悪い管理人がいるのかもしれない。

② 館の住人が、メモを書きながら移動し、一定間隔で紙を落とした
もしそうなら、その館の住人は
「……これは、まずいことになったな……(スッ)
 ……そろそろ書き終えたし、ここらで1枚落とすか……(ヒラッ)」
みたいな感じで、日常的にメモを落としながら生活していたことになる。

どっちにしても、正気の沙汰ではない。

しかし、わたしは知っている。

この世界では、誰が書いたか分からないメモこそが真実を語るのだ。

現実世界で「この場所には、恐ろしい何かがいる…!」というメモが落ちていたら、
「いや、怖すぎるだろ」と即座に立ち去るのが普通である。

だが、ホラーゲームでは違う。

プレイヤーはそのメモを読み、「なるほど、じゃあその“恐ろしい何か”を確認しに行こう」となる。

何が「なるほど」なのか。

この世界のメモは、いつでも都合よく、そこにある。
都合よく、恐怖を煽り、都合よく、次の目的地を示す。

しかし、わたしは問いたい。

「なぜ、どのメモにも筆者の名前がないのか?」

もし、あるとすれば――

「わたしはこの館の住人、ジョージ・A・メモだ」

…と、書かれたメモが落ちている日がいつか来るかもしれない。

そのメモの裏には、こう追記されているだろう。

「このメモを読んでいるあなた、そろそろ背後に気をつけたほうがいい」

驚いて振り向くも、そこには何もいない。
だがふと気づくと、自分のポケットの中に一枚の紙が。

「ようこそ、次の“メモの筆者”へ」

…そんなホラー展開はゴメンだが、実際問題、今日もわたしは
「怖い場所にわざわざ足を運び、メモを拾い、律儀に読んでいる」
という事実が一番ホラーなのかもしれない。

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