湘南でサバンナのヒョウになった話
旅行先で買ってくるお土産。
土地の名産品を使ったクッキーだとか、何が名物なのかよくわからないラスクだとか。お土産売り場には、そういうものが山ほど並んでいる。
そこに不満はない。別にそれでいい。
旅行に行ってきました。これ、皆さんでどうぞ。
お土産というものは、基本的にそういうものだろう。受け取る側だって、それほどの期待はしていないはず。
でも、わたしはどうにも納得できない。
せっかく買うのだから、何か面白いものを選びたい。一捻りくらいならまだしも、できることならトリプルアクセルくらい捻りたい。
もっとも、そんなものを要求している人が誰もいないことはよく分かってる。
わたしが一人で勝手に競技を始めているだけだ。
サバンナのヒョウになる
先日、湘南へ行ってきた。
お土産売り場には、湘南らしい品物がたくさん並んでいる。
ほほぅ、なるほど。湘南ですね。実に湘南らしい。
しかし面白くない。
いや、商品が悪いわけじゃない。どれもきちんとお土産としての役割を果たしている。
わたしの中にいる何かが、それでは納得しないだけなのだ。
もっと何かあるだろう。
何かこう、予想の斜め上を行くような。
そんな気持ちで売り場を徘徊するわたしは、もはや買い物客ではなかった。
サバンナの草むらに身を潜め、インパラを探すヒョウ。
目を凝らし、気配を探り、獲物を見定める。
そして。
いた。
これだ!!

「大阪に行ってきました。」
大阪土産だ。
湘南で見つけた、大阪土産。
しかも控えめな大阪土産ではない。
大阪城、通天閣、道頓堀、たこ焼き、串カツ。ありとあらゆる大阪を詰め込み、中央には堂々たる「大阪」の文字。
挙げ句の果てに「大阪に行ってきました。」とまで宣言してる。
完璧だ。
何が完璧なのかはわからないけれど、とにかく全身に稲光が走ったような衝撃。
即購入。
お母さんは獲物をゲットしてきたでー!
子ヒョウたちに誇らしげに見せびらかしたくなるほどの高揚感。
長い狩りが、ついに実を結んだのだ。
そして、冷静になる
しばしの時間が過ぎた。
改めて、戦利品を眺める。
「大阪に行ってきました。」
……。
これは……。
ど、どうなんだろう。
さっきまで、あれほど輝いて見えた獲物。
間違いなく、これこそ求めていたものだと確信していたはず。
しかし今になって考えてみると、湘南に行ってきた人間が、大阪に行ってきたと書かれたクッキーを配る。
これは、いったい何なのか。
面白いのか。
いや、確かに妙ではあるのだけれど。
でも、それを受け取った人はどうすればいいのか。
「大阪に行ってきたんですか?」
「いいえ、湘南です」
「……?」
2秒で会話が終わる。
サバンナの草むらで、ようやく捕まえたインパラ。
意気揚々と巣穴に持ち帰り、子ヒョウたちの前に放り出してみたところ、どうも様子がおかしい。
インパラだと思っていたものは、ドリアンだったのかもしれない。
子ヒョウたちも困惑している。
お母さん、これ、どうしたらいいの。
知らんがな!
お土産とは何なのか
考えてみれば、わたしは何と戦っていたのか。
普通に湘南のお菓子を買って帰れば、誰も困らなかったはず。
それなのに、誰からも要求されていない意外性を追求し、勝手に難易度を上げ、ついには湘南で大阪土産を捕獲。
お土産選びとは、そもそも競技なのか。
トリプルアクセルを決めたつもりが、着氷した場所はスケートリンクですらなかった。
とはいえ。
あの売り場で、この商品を発見した瞬間の高揚感は本物だった。
「これだ!」と思った自分の感性も、決して嘘ではなかったと確信している。
ならばこれでよかったのだ。
たぶん。
さて。
この大阪土産を、いつどこで誰にどういう顔をして渡したらよいのか。
