【後編】三島の師匠を訪ねて。半日で起きた、小さな奇跡の話

太鼓を叩かない日だった

海鮮ランチを終え、いよいよスタジオへ。

実はこの日、スタジオでは太鼓を叩かなかった。

なんとなく、今日はそういう日ではない気がしたのだ。

音を出す日ではなく、空間そのものに触れる日。

師匠である 上野由人 さんに案内していただきながら、制作途中のスタジオを見せていただく。

心の底から感嘆した。

いや、これ、本当にDIYなのですか。

DIYという言葉には、どうしても「がんばった手作り感」というイメージがつきまとう。

でもここには、場の説得力があった。

音が鳴る前から、もう空間が完成しかけている。

ここで太鼓を叩いたら絶っ対に気持ちがいい。

そう確信できる空気が、すでに壁に染み込み始めていた。

「一枚噛ませてください」と言ってしまった

ここまで来たのだ。

見学だけして帰るというのも、なんだか落ち着かなかった。

いや、正確に言うと、「この場所の完成に、一ミリでも関わりたい」という気持ちが、むくむくと膨らんでしまったのだ。もっと正確に言うと、まあ、最初からそのつもりでいたようなところはあるのだけれど。

それで、つい言ってしまった。

「なにかお手伝いできることはないでしょうか」

言ったあと、ちょっとだけ思った。

余計なこと言ったかもしれない、と。

人は時々、「役に立ちたい欲」が先走る。

しかも、DIY技能がそこまで高くない人間ほど、勢いで言う。わたしに関していえば、高くないというか、絶望的に低い。

でも師匠は、自然に作業を任せてくれた。

最初は、壁にタイルを打ち込む作業。

空気圧でガシャッ、ガシャッと固定していく機械。

名前は知らない。

DIY界隈には、名前は知らないけどテンションの上がる機械が多すぎる。

慎重に。

でも楽しく。

ガシャッ。

ガシャッ。

ああ、人類はこうやって文明を築いてきたのかもしれない、と思った。

たぶん違う。

完成前の空気を、記録したかった

そのあと、わたしは一人でスタジオ内をウロウロし始めた。

動画を撮っていたのだ。

完成前の姿を、記録として残しておきたかった。

完成してからの姿は、きっとこれからたくさんの人が見る。

でも「完成する前の熱量」は、今この瞬間にしか存在しない。

木材の匂い。

まだ空白の壁。

作業途中の工具。

人が未来を作っている途中の空気。

そういうものは、完成と同時に消えてしまう。

文化祭前日の教室みたいなものだ。

文化祭当日はもちろん楽しい。

でも記憶に残っているのは、準備している時の時間だったりする。

井澤寛史さんとわたし

再会というのは、突然ドアから入ってくる

動画を撮りながらウロウロしていると、入り口のほうから師匠の声が聞こえた。

誰か来たらしい。

行ってみる。

するとそこには、昔、三島のイベントでご一緒させていただいた方が立っていた。

まさかの再会だった。

人生には時々、「え、ここで!?」という再会がある。

そういう再会は、だいたいコンビニでは起きない。

なぜか「ちょっと特別な日」に起きる。

嬉しくて、たぶんわたしのテンションは少しおかしかったかもしれない。

普段からおかしい可能性もあるので、判別は難しい。

センスのある人と、床の羽虫

その方も、壁にタイルを打ち込む作業をやることになった。

めちゃくちゃ上手かった。

そしてすごい早い。

しかも綺麗。

「ああ……センスがある人というのは、こういう時にも普通にセンスがあるのだ……」

と思った。

そういえばその方は、太鼓もチャッパも、ものすごく上手い。

器用な人は、だいたい何をやっても器用なのだ。

センス、か…。

わたしは静かに床を視線を落とした。

一匹の羽虫が、ひっくり返っていた。

脚をバタバタさせながら、起き上がれずにいる。

必死だった。

なんだろう。

少し安心した。

ああ、わたしはたぶん、あっち側なのだ。

スーパー器用サイドではなく、なんとか起き上がろうとしている羽虫サイド。

その必死さや、よし。

それでいいのだ。

人工芝を切りながら、愉悦について考える

次に任せてもらったのは、スタジオ入口の壁に、人工芝を仕込む作業だった。

カッターで切る。

植え込む。

合わせる。

また切る。

自分のカッターさばきには若干の不安があった。

「この人、指ごといきそうだな」

という気配を、自分自身から感じていた。

不思議と怖くはなかった。

それ以上に、

「師匠のスタジオに、一枚噛ませてもらえている」

という喜びのほうが大きかった。

愉悦。

たぶん、あの時間を表現するなら、この言葉が一番近い。

何か巨大な成功をしたわけじゃない。

世界を変えたわけでもない。

人工芝を切っていただけ。

でも人間には時々、ただ関われているだけで満たされる時間というものがある。

あれはかなり尊い。

半日の三島で起きた、小さな奇跡

夜。
その日はたまたま、中島八坂太鼓 の練習会がある日とのこと。

せっかくなので、かなり前のめりの精神性で参加させていただきました。

半日。

たった半日だ。

それなのに、再会があって、DIYがあって、海鮮があって、笑って、懐かしくて、未来の話までしていた。

情報量がすごすぎる。

人生の「良い日」というのは、たぶんこういう日だ。

派手じゃない。

でもあとから何度も思い出す。

帰り道、高速道路を走りながら、ぼんやり考えた。

人との縁というのは、不思議だ。

切れていないものは、勝手にどこかで再接続する。こちらが何もしてなくても。 

こちらが想像していたより、ずっと温かい形で。

師匠。

本当にありがとうございました。

ぜひまた、伺わせてください!

RISUS & SMILE レンタルスタジオについて

師匠の 上野由人 さんと、井澤寛史 さんが、静岡県駿東郡清水町でDIY制作を進めている和太鼓スタジオ
「RISUS & SMILE レンタルスタジオ」。クラウドファンディングは終了していますが、プロジェクトの背景や想いが詳しく書かれています。
詳細はこちら。
RISUS & SMILE レンタルスタジオ プロジェクトページ

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